「子どもの成績が下がってきた」、「スマホやゲームばかりで勉強しない」…。
中学生のお子さんに対して、このような悩みを抱える親御さんは多くいらっしゃいます。
なぜ勉強しないのか?どうやったら勉強してくれるようになるのか?
本記事では、心理学の研究で科学的に示されている知見を交えながら、中学生のお子さんが勉強に取り組むようになるヒントをご紹介します。
中学1年はやる気を失いやすい時期
子どもが勉強しない様子を見ると、不安に感じてしまいますよね。「うちの子は勉強嫌いなんだ」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、同じように学習意欲を失っている中学生は少なくありません。「中学生のわが子が勉強しない」という悩みは、実はよくあることなのです。というのも、小学校から中学校に移行することで学校の環境やカリキュラム、教師の指導方法などが大きく変化します。それに伴い、小学校までの慣れた勉強の仕方が通用しなくなり、勉強へのやる気をなくしてしまいます。
このように、勉強しても上手くいかない経験が積み重なると、「どうせ勉強しても無駄だ」と思うようになり、次第に勉強に取り組まなくなってしまいます。そして成績も伸び悩み、さらにやる気を失ってしまう。勉強に取り掛かるためには、このような負の連鎖から抜け出す必要があります。
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小さな成功体験の積み重ねがポイント
では、勉強しない中学生のやる気に火をつけるためには、どうすればいいのでしょうか。この問いについて、BanduraとSchunkが行った心理学研究の結果から、短期的な目標の設定が役立つと考えられます。
Banduraらは、算数が苦手な子ども40人を対象に、同じ教材を用いて引き算の自習に取り組ませました。子どもたちは、「短期的な目標(1日6ページ)を立てるグループ」、「長期的な目標(7日間で42ページ)を立てるグループ」、「目標を立てずに練習するグループ」、「練習しないグループ」の4つに振り分けられました。
その結果、「短期的な目標を立てるグループ」の子どもたちはより早く学習内容を習得しました。それだけではありません。苦手意識のあった算数に対し「自分ならできる」という感覚や、学習内容に興味に対する興味を持つようになったのです。
短期的な目標が効果的だった理由として、成功体験を積み重ねやすいことが挙げられます。学習に苦手意識があるうちは、ハードルが低く実現できそうな目標を設定します。そうすることで、「目標を達成できた!」という成功経験が得られ、「これからも目標を達成できるかもしれない」という自信につながり、学習のやる気が生まれていくのです。
以下では、長期的な目標を取り組みやすい目標に変換した例を示しています。
・英単語を1ヵ月で100語覚える→英単語を1日3単語覚える
・「一次関数」を理解できるようにする→「一次関数」の問題に1日10分取り組む
・英作文ができるようにする→英語で2~3文の日記を書いてみる
このように、小さな目標を立てて繰り返し成功体験を得ることが、勉強に対するやる気の向上につながります。言い換えるなら、毎日少しずつコツコツと勉強することが重要です。しかし、「今まで勉強をしていなかったのに、本当に続けられるの?」「三日坊主になるのでは?」と考える方もいらっしゃると思います。以降では、勉強を毎日の習慣にできる工夫をご紹介します。
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勉強を日常生活に組み込むと続けやすい
まず、勉強を他の日常生活における行動に結び付けると、習慣化しやすくなります。我々が習慣として行っている行動には、「○○をしたらこの行動をする」といったように、他の行動と結びついているものが多くあります。例として、「夕食を食べたら歯磨きをする」、「朝起きたら顔を洗う」などがあります。これらと同じように、「○○をしたら勉強する」というルールを作ると、習慣化しやすいと言われています。このテクニックの効果は、心理学者ゴルヴィツァーによる研究によって証明されています。
以下では、勉強を日常生活に組み込ませたルールの例を紹介しています。お子さんやご家庭の生活スタイルに合わせて、オリジナルのルールを作ってみてください。
・学校から帰ってきて手洗いうがいをしたら、10分間、理科のドリルを解く
・朝起きてカーテンを開けたら、英語のリスニング用の音声を流す
・テレビを見ていてCMが始まったら、社会のプリントを見て復習する
暇があるとついついスマホを触ってしまう…というお子さんには、以下のようなルールもおすすめです。
・学校から帰ってきたら、1時間、スマホを別の部屋に置いて使わないようにする
・スマホを開いてSNSを見たいと思ったら、まず単語帳アプリを開いて英単語の勉強をする
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友人や家庭教師の存在も効果的
みなさんは、積極的に勉強を取り組んでいる人を見て、「あの人は元々勉強好きだから」、「初めから内容に興味があったのだろう」と思うことはありませんか?実は、最初から勉強する内容を「面白いだろう」と思って勉強する人は少なく、むしろ、勉強を進めていくうちに面白さが分かるようになるパターンが多いです。そのため、まずは勉強という行動を始めることが重要なのです。
そこで、最初のうちは、勉強の内容そのものに興味がなくても「勉強しよう」と思えるような環境を作るのが効果的です。アメリカの心理学者Alderferによると、人間のモチベーションを支えるものの一つに、「他者との人間関係を持ち続けたい」という欲求があります。つまり、他者と一緒に勉強するような環境を作ることで、相手との良好な関係を維持するために、勉強に取り組む意欲が生まれると考えられます。
例えば、友達と分からない部分を教え合ったり、テストの点数を競い合うことなどが挙げられます。特に、自分と同じ学力レベルの友達が良い成績などを取ると「自分も良い成績が取れるかもしれない」と感じられ、やる気が向上すると言われています。この効果は、先ほど紹介した心理学者Banduraによって提唱されています。
勉強仲間が身近にいない場合は、家庭教師を活用するのも有効です。ポイントとして、ただ勉強を教えてもらうだけではなく、学習状況を報告することが大切です。日々の目標が達成できていれば、家庭教師からはポジティブなフィードバックが得られ、達成出来ていなかった場合には、学習を続けるコツやアドバイスが得られます。このようなやり取りを繰り返すことで、家庭教師と良好な関係を築くことができ、勉強そのもののモチベーションにも良い影響を与えます。
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まとめ
本記事では、勉強に対するやる気を引き出すアイデアをご紹介しました。お子さんのやる気のきっかけとなるのは、短期的な目標の達成を繰り返して身に付けた自信です。本記事で紹介したさまざまなテクニックを基に、お子さんと一緒に学習目標を考えてみてはいかがでしょうか。
参考
- Alderfer, C. P. (1969). An empirical test of a new theory of human needs. Organizational behavior and human performance, 4(2), 142-175.
- Bandura, A., & Schunk, D. H. (1981). Cultivating competence, self-efficacy, and intrinsic interest through proximal self-motivation. Journal of personality and social psychology, 41(3), 586.
- Gollwitzer, P. M. (1999). Implementation intentions: strong effects of simple plans. American psychologist, 54(7), 493.