国語の点数を伸ばしたいという生徒さんからお悩みや、子供のテストなどで国語が足を引っ張っているみたい…という保護者の方からの声をよく聞きます。
よく国語は「読解力」が大切だと言われます。確かに登場人物の気持ちや物語の背景を感じ取る情緒的な読解力が必要ですし、新聞やレポートを読むときは、論理的に情報を整理して主張や根拠を理解する論理的な読解力が重要です。
でもいざ読解力とは何かと問われると、即答できない方も少なくないのではないでしょうか。 そしてよく言われるように読解力は本を読むことで身につくのでしょうか? 今日はわかったつもりの「読解力」の本当の上げ方をお伝えします!
読解力とは
読解力とは何でしょうか。簡単に言ってしまうと「文章などを読み解く能力」のことです。 う~んざっくり。もう少し詳しく見ていきましょう。 読解力は種類に分けることができます。 一つは情緒的な読解力 もう一つは論理的な読解力です。
情緒的な読解力
情緒的な読解力とは、国語の試験で言うところの小説文に該当します。行動や感情に関する語彙、比喩表現、会話から心情を推し量る能力が求められます。日本語は「あいまいな表現や言い回しが多い」とよく言われますが、情緒的な読解力ではこのような日本語の特性を読み取る能力が必要です。
論理的な読解力
論理的な読解力とは、国語の試験で言うところの評論文に該当します。行間や情緒などは考えず、本文中の言葉や文章構造、単語、接続詞などを見て、著者の主張やその根拠を理解します。数学の文章題が苦手な人は、この論理的な読解力が苦手なことが多いです。
関連記事:つかみドコロのない現代文でもこれさえやればOK!現代文の点数を伸ばす方法
低下しつつある日本人の読解力
しかし、今この見本人の「読解力」が低下しつつあると言われています。
PISAにおける日本の読解力の順位低下
国際的に実施されている学習達成度調査(PISA)において、日本人の読解力が必ずしも高くないことが明らかになってきました。PISAは、OECD加盟国の世界79カ国・地域の15歳を対象に、読解力と数学的・科学的応用力を測ることを目的としています。
PISAは2000年に第一回調査が開始され、その後3年ごとに調査が行われています。2018年のPISAの結果では、日本の「読解力」の平均点が前回の8位から15位に下落しました。
なぜ日本の順位は落ちたのか?
日本の教育で使われている「読解力」という言葉が、PISAで使われている読解力(PISA型読解力)とは異なっているからです。
PISA型読解力とは
- テキストに書かれた情報を理解するだけでなく、「解釈」し、「熟考」することを含む。
- テキストを単に読むだけでなく、テキストを利用したり、テキストに基づいて自分の意見を論じたりできる。
- テキストの内容だけでなく、構造・形式・表現法も評価の対象となる。
- テキストには、文学的な文章や説明的文章などの「連続型テキスト」だけでなく、図・グラフ・表などの「非連続型テキスト」を含んでいる。
というもので、国際的なレベルでは、このように単なる文章理解を超えて複合的に情報を理解し、それを読み解く能力が求められています。
関連記事:日本は2年連続低下・・・学習達成度調査(PISA)っていったい何?
日本の読解力の問題点
上記で見たように日本の学生に求められている読解力は「文章」のみを対象にしたものが圧倒的に多く、本当の意味での読解力とは呼べないという批判があります。
では世界はどのように読解力を伸ばす教育が行われているのでしょうか。
立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏の著書、『人生を面白くする 本物の教養』には、日本と世界の教育の違いとして以下のようなエピソードが紹介されています。
ロンドン在住の友人から聞いた話ですが、あるとき、12歳の娘さんが宿題の相談に乗ってほしいと持ちかけてきたそうです。友人は仕事が忙しいため、普段娘さんとは没交渉になりがちだったので、喜んで娘さんの相談に乗りました。娘さんは日本人学校ではなく現地の学校に通っていました。出された宿題とは次のようなものだったといいます。
中世に、サセックス地方の裕福な農家へ嫁いだ女性が書いた日記があった。その農村を仕切っていた地主の執事が書いた記録もあった。それから、19世紀にその時代の農村を調べたオックスフォード大学の教授が書いた「サセックス地方の中世の農家の形態」という論文もあった。この三つを読むにあたって、どういう点に注意すればよいか、というのが宿題の内容だったそうです。
友人はあまりの難しさに内心ひっくり返ってしまい、苦し紛れに娘さんに「おまえはどう考えているんだ?」と聞いてみたそうです。すると娘さんは、「嫁いだ女性が書いたことには嘘がないと思う。村で起こったことがありのままに書かれているだろう。でも、自転車も電話もない時代だから、自分の目で見える範囲のことにとどまっていると思う。地主の執事が書いた記録は、おそらくより多くの年貢を取りたいという気持ちが働いているだろうから、作物の収穫量などを加減して書いている可能性がある。それを含んで読まねばならないと思う。それからオックスフォード大学の教授の論文は客観的なように見えても、どこかで自分の学説に都合のいいように脚色されている恐れがある。だから頭から信じないようにしたほうがいいと思う。このように答えようかと思っているんだけれど、おとうさん、どうかな?」と言ったそうです。
友人は「まあ、それでいいじゃないか」と答えつつ、「連合王国の教育はすごい!」と舌を巻いたそうです。
出典:出口治明『人生を面白くする 本物の教養』幻冬舎新書 2015年
いかがでしょうか。日本で言う「読解力」とは、英語に直せばreading comprehensionというべきもので、一つの文章の意味を正確につかむこと、いわば「読み」の部分に重点が置かれています。
対して、世界的に言われる「読解力」とは、一つの文章にとどまらず、複数のデータからその偏りを考え、自分で答えを探していく能力です。
関連記事:勉強の質ってなに?勉強の質を上げるための方法とは?
日本の教育の変化
実際に大学入試共通テストの試行版ともいえるプレテストにおいて、国語の科目では法律などの実用的な文章や資料が問題文として取り上げられ、複数の情報から複合的に正解を求めさせる傾向が目立っていました。プレテストではグラフや図表も資料として用いられており、PISAのレベルの読解力を身に付けることが今後求められることがわかります。
PISAの結果は日本の教育方針にも大きな影響を与えています。現在、学生が習う内容が増え、脱ゆとり教育となっていますが、その背景には学習達成度調査(PISA)での日本の順位が下がったこともあります。先ほど紹介したイギリスの宿題の内容もPISA型の読解力を求める内容のものです。
関連記事:英語の長文読解が苦手!スラスラ読めるようになる勉強法を解説
大人になっても求められる読解力の必要性と効果
読解力は国語のテストのときだけ必要とされるものではありません。大人になってからも必要ですし、それ以前の大学入試においても小論文として読解力を駆使する場面が出てきます。大人になっても求められる読解力は、単なる文章理解のスキルを超えて、情報を深く理解し、それに基づいて論理的に考える能力が重要です。以下では、大人になってから必要とされる具体的な読解力の効果について詳しく説明します。
効率性や質の向上
仕事上での読解力は、さまざまな書類やデータを理解し、重要な情報を抽出する能力が求められます。例えば、プロジェクトレポートや市場調査データを読み解き、課題や新たな戦略の発見につなげることが可能になります。さらに、技術マニュアルや手順書を理解し、正確な操作や問題解決に役立てることも重要です。このように、高度な読解力は仕事の効率性や成果の質を向上させるために不可欠です。
対人コミュニケーションの質を高める
読解力が高ければ、他者の意見や論点を理解し、それに対して自分の意見を主張するポイントを見つけ出すことができます。討論やディベート、ビジネス交渉などで、相手の立場を尊重しつつも自分の意見を主張するためには、この能力が不可欠です。
大人になってからの読解力は、ただ情報を理解するだけではなく、情報の深層を読み解き、それをもとに考え、行動する能力を指します。幅広い情報源を活用し、その背景や著者の意図を理解することが不可欠です。業界の専門誌や市場分析レポート、さまざまなデータソースから情報を収集し、それらを比較検討することで、客観的な視点を保ちながら議論を深めることができます。また、情報の信頼性や偏りを見抜きながら、自分の立場や意見を的確に表現する能力も重要になります。
これにより、仕事の効率性や対人コミュニケーションの質を高めることができます。さまざまな状況に応じて、的確に情報を取捨選択し、問題解決に向けたアプローチを見つけ出す力が、実生活での読解力の真の価値です。
関連記事:なぜ勉強するの?集中できないときは学ぶ意味と目的を明確にしよう!
点数が上がる!読解力の伸ばし方
では読解力はどう伸ばしていけばいいのでしょうか。 読解力をどう伸ばしていくのかについては日常から積み上げていくものと、テストや模試での「解き方」のようなテクニックに大別されます。
日常的に読解力を高めていく
日常的に読解力を高めていくことも大切です。日常的に読解力を高めていくにはまず語彙力を身に付けることです。 この意味であれば本を読んだりするのも有効でしょう。 SNSが浸透した現在では文字に触れていても、平易かつ感覚的な文章(≒話し言葉)ばかりでなかなか新しい語彙や単語は入ってこないかもしれません。 小説や新書などの本を読んだりするのがオススメです。
また本だけでなくいろんな年齢層や自分とは違う人たちともコミュニケーションを図るなど、いろんなことに触れて吸収することを大切にしてください。
本を読むときも語彙や単語だけではなく、指示語や代名詞が何を指しているのか、「今読んでいる文は何について書いているのか」などを意識することが大切です。 自分とは違う人たちともコミュニケーションを摂ることも大切。普段使わない語彙を知るきっかけになるかもしれませんし、同世代の間だけであれば「アレ」「コレ」で通じる話も相手の知識量、理解力に応じて言い換えて話さなければならないこともあるでしょう。そういった言い換え能力、言語化能力も読解力を伸ばしていくためには大切になります。
関連記事:「勉強しなさい!」は逆効果!家庭教師が教える本当に子どものやる気を引き出す方法
テストの中で「読解」するポイント
テストや試験における読解力を高めるためのテクニックも重要です。特に評論文などでは、以下の手順が効果的です。
- 全体を斜め読み: 文章全体の主題や文脈をつかむために、最初に全体をざっと読みます。
- 著者の意見を確認: 著者が何を伝えたいのか、その主張や立場を把握するために、最後の段落を重点的に読みます。
- 設問の選択肢を確認: 出題された問題や設問の選択肢を注意深く読みます。
- 根拠の探索: 選択肢を裏付ける具体的な情報や論拠を文章中から探し出します。
例えば 「次の選択肢の中から著者の主張に合致しているものを選べ」などという問題の出し方は評論文の試験において定番ですね。 余計な行間を読んでいないか、自分の思い込みはないか、そういったことを考えながら根拠となる部分に線を引くなどをしていきましょう。
万が一間違えていたとしても、線を引くなどの「考えた跡」を残すのはとても大切です。 国語は暗記科目ではないので、文章問題の選択肢の文言を覚えても無意味です。復習の際に間違えた「考え方」や「読み違い」を思い出せるように考えた跡を残しておきましょう。 情緒的な読解とは国語の試験で言うところの小説文に該当します。
一点注意してほしいのは、今までに伝えた読解力とはあくまでテストや試験を乗り切るために必要とされる範囲での「読解力」。 次はPISAなどに代表される「読解力」の伸ばし方を見ていきましょう。
関連記事:勉強嫌いは活字が苦手なせい?文字が苦手を克服する勉強法
一生役立つ読解力の鍛え方
読み取る力を伸ばすには、複数の情報源から情報を集めて、その違いや共通点を見つけることが大切です。たとえば、同じ出来事について異なるニュースサイトや新聞で報道されている内容を比べてみましょう。一つの事柄でも、そこはメディアによってさまざまなとらえ方があることに気づくはずです。
また、グラフや図を見ることも役立ちます。これは非文章型のデータから情報を読み取るトレーニングにもなります。気温の変化を示すグラフを見れば、季節ごとの気候の違いや変化が一目でわかります。たとえば、夏と冬の気温の差を比べて、それがどうして起こるのか考えてみましょう。
さらに、身近な問題を掘り下げてみることも大切です。自分の学校や地域で起こっている問題を見つけて、その原因や影響を考えてみましょう。たとえば、学校でのトラブルがあった場合、その背景にある理由や、その問題がどう解決されるかを考えることができます。
これらの方法を使って、複合的な視点で情報を読み取り、問題点を見つける力を少しずつ養っていきましょう。新しい情報を探求する楽しさを感じながら、自分の観察力や分析力を高めていくようにしましょう!
関連記事:人に教える勉強法にはこんな効果が!人に教えることで身につく力
「読解力の上げ方」の最後に
本当の「読解力」を身に付けることは一夕一朝には難しいかもしれませんが、身につけばそれは一生ものの財産になります。
読解力は、物語を楽しむだけでなく、学校の授業や社会で必要な大切な力です。感情を理解する情緒的な読解力と、情報を整理する論理的な読解力を鍛えて、自分の意見をしっかりと持てるようにしましょう。これからの学びや未来の仕事にも役立ちます。一緒に楽しく読解力を身につけましょう!